JPDA調査研究委員会
調査研究報告会「売れる特産品はこうして作られる」
〜全国デザイナー調査から見えてきた成功のポイント〜
- 開催日
- 2016年03月17日(木)0:00
開催情報はありません。
開催日時:2016年3月17日(木)18:00~20:30
開催場所:東洋インキSCホールディングス 8F 大会議室
パネリスト:立花かつこ氏(立花デザイン事務所)
本多英二氏(御来屋デザイン事務所)
氏原文子氏(エイ・デザイン)
総合司会:加藤憲司 / 調査報告:佐野良太 / パネルディスカッション司会:桑 和美
参加者:84名(会員63、一般18、学生3)
【Part1 デザイナー調査報告】
当初定員を大きく上回る多くの方に参加いただき、熱気溢れるなかで今回の報告会&パネルディスカションがスタートしました。デザイナー、企業のデザイン部門の方、一般・学生の方など参加者もさまざま。冒頭、司会の加藤憲司理事よりJPDAのご紹介と今回報告会の趣旨説明。JPDA加藤芳夫理事長のあいさつに続き、Part1のデザイナー調査報告へ。
佐野良太委員より、調査研究委員会が昨年実施した特産品開発に関する全国デザイナー調査の結果概要を報告。2013年に実施した事業者調査から見えてきた課題をデザインサイドから捉え、成功事例の共通要素を導き出せないか、などが今回の調査の動機になっています。デザイナー調査は、地域に拠点を置き、特産品などの商品開発に携わるデザイナー、ブランド開発デザイナーを対象に、2015年3月2日〜3月10日の間に計20名に電話アンケートを実施、具体的な事例や地域ならではの活動の実態や特性、地域での貢献や役割を探りました。共通するものとして、地域・生産者との顔の見える関係づくり、想いに耳を傾けると同時にデザイナーである自分自身も知ってもらう相互理解、など密なコミュニケーションがベースにあります。また、規模の小ささからくるさまざまな制約・課題がある中、パッケージデザインにとどまらず、コンセプト開発、ネーミングからブランディング、売り場作りなど生産者と共に商品開発、販売促進にトータルに取り組んでいるのも特徴です。その他、お金の話、デザインと地域貢献などアンケート調査で浮かび上がってきた事項が報告され、また、調査を通して得られた事例も一部紹介されました。2013年度の事業者調査、今回報告の2015年度デザイナー調査の結果およびデザイン事例については、下記もご覧ください。
>>> 2013年度事業者調査概要
>>> 2015年度デザイナー調査概要
【Part2 パネルディスカッション】
まずは各パネラーからそれぞれの地域での自身の経験、事例を紹介。(以下、登壇順)
◎立花かつこ氏……デザイン会社、広告会社でグラフィックデザインに従事後、デザインオフィスを設立、パッケージデザインに関わる。主に徳島県の特産品開発のプロデュースに携わる。とくしま物産振興戦略会議委員、徳島県阿波の逸品審査委員。
立花氏の最初の事例は、阿波藍のプロジェクト。「JAPAN BLUE」として海外でも評価の高い日本の藍染めの中でも、阿波藍は葉藍を発酵させた「すくも」が特徴で長い歴史があります。阿波藍の文化を現代の生活によみがえらせる「阿波藍×未来プロジェクト」でのイベントや展示、開発商品などが紹介され、立花氏自身の阿波藍に対する強い思いも感じられました。続いて、江戸時代の行商から始まった鮮魚卸販売会社「泉源」の事例。子どもたちにもっと魚を食べてほしいというコンセプトで水産加工品のパッケージにキャラクターデザインを採用、展示会や店舗でも独特の世界観を打ち出しています。「キャラクターを自分がつくるとは思っていなかった」と語る立花氏ですが、これが好評で、別の会社からもキャラクターづくりの依頼が来るようになったとか。
>>> 立花氏開発事例「魚嫌いのキミが好き!」
◎本多英二氏……岡山に御来屋デザイン事務所を設立、後に東京事務所も開設。生産の現場である岡山と、消費の現場・東京との行き来でお互いの不足部分を補完する役を負っている。農水省認定6次産業化プランナー。
本多氏からは、岡山のワイン「TETTA」の事例紹介。ロゴデザインの依頼から始まったものが、ファン獲得策にまで展開、「パッケージ(デザイン)は、商売のための道具である」「その道具を使って如何にお金を生むか」「地域においてはデザインの前後の仕掛け作りが肝要」と語ります。実はブルゴーニュとよく似た土の自家農園で育ったぶどう100%から作られるワイン、生産量が少なく価格も高くならざるを得ないが、(地域産品だからこれで勘弁してというような)「お土産にしたくなかった」と、高いクオリティを目指したといいます。植え付けや収穫のイベント(参加は有料)を開催するなどファンになってもらうための仕掛けづくりにも関わっています。売れる特産品の作り方、それは「売れるまでやる!」とプレゼンテーションを締めくくりました。
>>> 本多氏開発事例「お客さんは大目に見てくれない」
◎氏原文子氏……東京、ワークファブリックを経て、1997年北海道への移住とともにフリーに。暮らす土地と人から始まり、クライアントや商品の持ち味、メッセージを生き生きと伝えるパッケージを主体にデザイン取り組んでいる。
氏原氏のプレゼンは、住まいでもある北海道・鶴居村の紹介から始まりました。この村は釧路湿原国立公園の隣に位置し、その名のとおり鶴が居る鶴居村。夏に湿原で暮らすタンチョウが、冬に鶴居村に渡り、村の川で暮らし給餌場に通います。木々が葉を落とす季節はエゾシカやキタキツネなど野生動物の姿も多く目につく地域。酪農がさかんで、隣接する釧路には国内有数の水揚げ量を誇る漁港があります。そんな環境でデザインの仕事を始めた際の話や関わった事例を紹介。道東ならではの乳製品はもちろん、森林活用啓蒙キャンペーンの一環でラッピングバスのデザイン(これもパッケージ?!)をすることも。鮭を大量の塩に漬ける伝統的保存食・山漬を鶴居村の山で作る人がいた事に因んで商品化された「山の山漬」もその1つです。地元の人達との深い交流の中から仕事につながっていくこともあるとのことです。
>>> 氏原氏開発事例「時をこえて送るメッセージ」
後半は、司会の桑和美理事からの質問に答える形でのディスカッション。
(後日、パネリストの方々から一部補足をいただきました)
Q1:楽しいこととたいへんなこと
立花:デザイナーとしてはグラフィックからスタートした。最近になってパッケージデザインが楽しく思えるようになった。かつて包装の会社を通しての仕事を数年したが、定期的にお仕事をいただいたにもかかわらず、自信がもてず、やりがいがなかった。やはり直接クライアントに会って共に作りあげていくのが楽しく頑張れる気がする。苦労するのはパッケージのコスト。小規模な事業者が多いので、ロットが小さく包材の単価が高くなってしまう。ボトルは有り物、既製品包材をラベルでアレンジすることが多い。
本多:経営者、社長、生産者から「よく売れるようになった」という声を聞くとうれしい。大変なのは、手離れが悪いこと。手離れを良くしようとすると結果が出ない。結果が出ないと「デザイナーは役に立たない」と言われる。後の世代のためにも結果を出すよう心がけている。
氏原:楽しいこと…クライアントと一緒に前に進める。デザインを通して先が見えてきた時はやりがいを感じる。たいへんなこと…何でも自分でやらないといけない。ネーミングもキャッチコピーも。
Q2:心に残る仕事を得たきっかけは? どんな人たちとの関わりで仕事につながった?
氏原:「山の山漬」を商品化しデザインで関わる事となった際のことが印象的。昔山漬けを鶴居村の山で家族分作り続けていた方がおり、今も息子さんが継いでいた。「あの味を商品化で残したい!」という魚加工会社の方と出会い、3人組んでのデザインそして商品化の過程が心に強く残っている。
本多:事例で紹介した「TETTA」が心に残る仕事。仕事は友達からの紹介が確実で、その後の仕事も「TETTA」つながりが多い。芋づる式。(笑)
立花:土産売り場でデザインを見た人から声がかかることもある。
Q3:地域で長く続けるコツとは?
立花:徳島しか知らない、徳島でしかデザイナーとして活躍できない、と思っているからかもしれない。もちろんデザインが好きだから、長く続けられるのだろうと思う。
本多:地元にはデザイナーを見たこともない人がいるので、ゆるく関わっている。バブル期の助成金がジャブジャブ出た頃に、事業者は痛い目にあっている。東京からデザイナーではないが「先生」が来て無茶苦茶して帰っていった、と言われることがある。その人たちに信頼してもらうのが大事。
氏原:結果的には喜んでもらえるが、始める前にデザインの良さを知ってもらうのは難しい事。自身の実績や資料とともに、「この人と新しい事できそう」と感じてもらえるよう、こころがけている。
Q4:デザインした商品を長く売るために大切なことは?
立花:モノづくりは知っているが、売り方を知らない生産者が多い。作って持っていけば何とかしてくれると思っている。最後まで愛を注いでほしい、とあきらめずに生産者に言い続けている。愛情を注ぎ切ってほしい。
氏原:どう売っていくかを一緒に考える。時間と共に定着していくこともあるので、長い目で付き合っている。
Q5:自治体との仕事
本多:6次産業プランナーとして関わっている。自治体にはお金の算談だけを頼む。デザインやブランディングには口出ししてほしくない。補助金は制約が多い。本当に必要としている人のところにお金がいかないこともあり、歯がゆい。単年度で終わるので継続性もない。自分で借入でもしてやる人のブランドは強い。
ここからは、会場からの質問タイムへ。(事前配布の質問票に、回答者を指名して質問を書いていただきました。ここでは、質問文を簡略化しています。)
Q‐A:(パネリストの皆さんに)取引先に儲かってほしいが、ボランティアではないので、Win-Winの関係でデザイナーも儲かるようになりますか?
本多:ナショナルブランドの仕事もしており、生活基盤があるからできる。地域産品だけで食べていくのはむずかしい。デザインにかかる金額(例えば100万円)と投資がペイできるようにする計画も提案する。
立花:先に「ウチはお金ない」と言われたことがある。玄関には高級外車が止まっていたりする。(笑) 正当なデザイン料を請求することが難しい。1点で3万~6万円程度が多い。
氏原:実績を認めてもらえると、わかってくれる人も出てきた。予算の単価が低いのは変わらないが。
Q‐B:(立花さんに)事例の「泉源」のデザインを詳しく聞きたい/「泉源」のキャラクター「いず坊」をデザインした時、最も重視したことは? 可愛さ? 漁師さんの力強さ?
立花:子どもたちにもっと魚を、というコンセプトでデザインにどういう個性・特長を出すか? 社長夫婦が30代と若いので、キャラクターもありかと考えた。いず坊ブランドは当初から海外(特にアジア)に販売を希望されていたので、ネーミングはローマ字で表現。他社商品との差別化を考えた時、記憶に残るインパクトの強い猫のキャラクターを採用した。イメージは、老舗の前掛けを掛けた力強い海の男。中身の商品が袋から見えるとき美味しそうに感じる、モノクロ表現にこだわった。キャラクターは見た人を笑顔にする、社内でも活気が生まれた。その後、パッケージデザインの国際コンペPentawardsに応募し、入賞。Pentawardsは日本からの応募が少ないと聞く。皆さんも是非応募を!
Q‐C:(本多さんに)新規案件でこの仕事を引き受けるか、引き受けないかどこでジャッジする?
本多:まずは月並みだが本人のやる気。本気でつきあうに足るかどうかで判断している。半時間ほど話せば大体のことは分かる。注視するのは事業計画や商品の話ではなく、姿勢、目線、声の張り。そして資金の出どころを聞く。自分で借り入れを起こしてでもヤルというプロジェクトは上手く行くが、助成金にどっぷり頼った企画は次年度に頓挫してしまうことが多い。2つ目は、商品に“お金の匂い”がするかどうか。私は事務所の経営者でもあるので、いやらしいハナシ、モノになりそうな産品を嗅ぎ分けなくてはならない。ブランド化といっても、それに資する素材か否かを見極めることが大切。百貨店のバイヤーから言われた。「漬物、ジャムの類はもういいよ」(苦笑)。基本、どこでもあるもの、作りやすいモノは引き受けないようにしている。
Q‐D:(氏原さんに)東京から釧路に移住したきっかけは? 東京との仕事、プライベートでのギャップは?
氏原:結婚して行くことになった。デザインの仕事はどこにいても続けられると思っていた。その時若かったのもあるし、移ったところが開拓の地なので、受け入れ側が「来るものは拒まず、去る者は追わず」といった雰囲気。地元民にはなれないが、だからできること、新しい生き方を探っている。
時間の関係でパネルディスカッションはここまでとし、交流会に入りました。交流会でもパネラーと参加者と、あるいは参加者同士で活発に意見交換がなされました。残念ながら当日はお聞きできなかった質問に対し、後日パネリストから回答をいただきましたので、別ページに順不同で掲載いたします。
>>> 追加質問およびパネリストからの回答
担当委員会:調査研究委員会
担当理事:桑 和美/加藤憲司
担当委員:足立美津子/高田知之/中越 出/西島幸子/福本佐登美/藤森 宏/佐野良太
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